勉強を継続、日々数時間を習慣化させるために、意志の強さに頼らなくてもやらざるを得ない環境を作ることが大切だ、というお話をしました。

昨日ご紹介したピアニストのように、もうやるしかない、という環境を作るのが一番ですが、それができないまでも、意志の強さは一切に信用せず、勉強に集中できる環境を作ろうと。

そのために、外出時、そして脳をコントロールしやすい朝を勉強に充てる、というスケジュールを提案しました。

とにかく意志の強さに頼らないこと。意志の強さを試すようなことをしたら、必ず負けるからです。なぜか。

動物脳と人間脳

人間の脳は三層構造だと言われています。その進化の過程で、古い脳に新しい脳が地層のように付け足される形でできていると。

内側の二層は動物に近い「古い脳」で、最も外側にあるのが、いわゆる人間らしさを形作る「新しい脳」です。

「古い脳」は原始的な欲求を司ります。生命の維持に関わる、食欲・性欲などより本能に近い部分。原始的な欲求であるため、強力に自分を動かします。しかも反応が早い。

弱い自分の正体はこいつです。(笑)この「古い脳」が主導権を握ると、私達は誘惑に負けてしまうわけです。

これに対して「新しい脳」は、いわゆる「人間らしさ」を司り、複雑な計算や、問題の解決のために作動します。「よりよい自分になるために努力しよう」なんていうのは、当然こちらの脳の担当分野。ただし作動するのに時間がかかる、という特徴があります。

何か気に障ることをされてカーっとなった自分を、「まぁまぁここは大人になろう」「相手にも何か理由があったのかも知れない」などと理性的に抑える、という場面を想像するとわかりやすいと思います。

最初の怒りに突き動かされる衝動は古い脳によって引き起こされた反応、それを後から新しい脳で理性によって抑えると。

言ってみれば私たちの頭の中で、人間VS動物のバトルが常に繰り広げられているわけです。

もし動物的な「古い脳」がすべての行動の支配権を握っていては、その場の衝動・欲求を抑えることができません。そうなると「後の大きな目標のために今努力する」のようなことは不可能となります。

誘惑に打ち勝つために

ある研究によれば、人間は40秒に一度は何かに気を取られ、誘惑と戦っているのだそうです。勉強に集中している時ですら、ほんの小さなきっかけから、脳は連想を開始しいくつもの記憶を呼び覚まします。

その反応のスピードはなんと100分の1秒だと言います。一瞬でも気を取られたら、そこからあっという間に動物脳に乗っ取られて、意識のスイッチが一気に切り替えられてしまいます。

速度が遅い人間脳では、スピードでは動物脳に「絶対に」かないません。

そんな強敵である動物脳を抑えるには、つまり勉強をする上で望ましくない行動をやめるためには、その行動へのハードルを上げることです。それも極端に。

「動物脳」は原始的な欲求に直結していて反応が速い、でもそのかわりにその衝動は長続きしないという特徴もあります(たいてい数秒、どれほど長い場合でも10分も持ちません)。

ということは、その衝動が起こった時にすぐに行動できないようにすればいいということ。そうすればそのうちに「人間脳」が作動して、理性的に考えられるようになります。これがすべての基本です。

「タバコを吸いたい」という欲求が芽生えた時にすぐに吸える状態にあるから、その行動をやめられないのです。

これが、手元になくて、外に買いにいかなくてはならない、そのためにはいちいち服を着替えて15分歩かなきゃ、という状況にあったら、着替えている内に「面倒だから今日はもういいか」という気分になるかも知れません。 

これが行動への「ハードル」が高い状況です。時間が経つことで動物脳の衝動が収まり、その内に人間脳が作動して理性的な行動ができるようになるのです。

「920までの道のり」の中で、当時テレビ中毒だった自分が、テレビをクローゼットの中にしまった、というお話をしました。これなんてまさにこの「誘惑へのハードルを上げる」作業ですよね。

こうしておけば、さぁ観ようと思っても、そのためにはクローゼットまで行って重いテレビを抱えてリビングまで持ってきて、その上で配線を繋いだりしなきゃならない。これだけハードルが高ければさすがに観る気になりません。それでもダメなら捨てる、という手段を取る必要があったでしょう。

実際、20代の時にゲーム廃人になった時は、最終的にゲーム機を全て捨てました。そうじゃないと断ち切れなかったからです。

ともかく、自分にとっての誘惑を特定し、その行動を「やりたい」と思えないレベル、簡単には出来ないレベルにまでハードルを上げればいいということ。

最大の敵はスマホ

この誘惑という意味で最大の敵となるのが「スマホ・ネット」です。

ちょっと調べ物をするつもりが、いつの間にかそれとは全く関係ないYoutube動画を次から次へを見てしまっていた、という経験はありませんか?

脳はもともと浮気性で、次々にその興味は移り変わります。ネットというのはその脳の特徴にピッタリで、こちらの要求に応え「すぎて」くれます。だからやめられない、危険な「時間泥棒」となりうるわけです。

スマホの通知で集中力が切れるのに、たったの2.8秒と言います。その直後から認知機能は低下し、作業効率は半分になってしまいます。気になった瞬間から動物脳の乗っ取りは始まるわけです。

そして一度集中力が途切れると、再び集中状態に入るまでに約23分かかる、という研究もあります。そうなると、SNSの通知の度に集中がそがれている人は、せっかく3時間勉強をやってもほとんど集中できていない、ということにもなりかねません。

ログアウトしておけば、「今見たい」という衝動が湧いても、そのためにはまずはスマホをしまっているところまで行って取り出し、電源を入れて立ち上がるのを待って、さらにはパスワード入力してログインして。。。という沢山の手間+時間がかかりますから、面倒でそこまでやろうと思わないはずです。

「ではスマホは休憩中に」と思われるかも知れませんが、それもよくありません。

アメリカの大学で行われた実験で、被験者にある問題を解かせたところ、その休憩中にスマホをいじっていたグループが問題を解き終わるまでの時間は、そうでないグループと比べて2割ほど長くかかり、それでいて正答率は2割低かったそうです。同じ作業により時間がかかるようになり、精度は落ちてしまう。

このように頭を使う作業をしている時、休憩中にスマホを使うと、脳の回復力が阻害され、パフォーマンスが下がる可能性があることが分かっています。

休憩中はしっかり頭を休ませた方がいいんですね(おすすめは目をつぶること、視覚情報が遮断されることで脳がリラックスできます)。

もう諦めましょう。スマホに関しては、時間を決めてその間だけ使うようにする。そうじゃないと際限なく続いてしまう、というのはよくご存知のはずです。

ここまで読んでも、「自分はLINE見ながらでも勉強できるからそこまではしなくて大丈夫」と思われるなら、あなたはもう重度の依存状態にあるかも知れません。

勉強中はPCやスマホは電源を切って、手が届かないところにしまっておきましょう。デスクトップなら、電源を切った上で他の部屋で勉強する。これによっていざという時に人間脳が発動するための時間稼ぎをするわけです。

それでもつい取り出して使ってしまう、という方は家族に預けましょう。車がある方はスマホを車の中に置いて勉強しましょう。これなら通知が気になっても、家を出て、車のカギを明け、ドアを開いて、のようにいくつものハードルを超えなくてはならなくなり、さすがに途中で目が覚めます。

「コンテンツブロッカー」というアプリを利用するのも手です。時間を指定しておけば、その間登録したアプリは利用できなくなります。 

You can’t have everything.

とにかくすべてこの要領です。自分にとって勉強の誘惑になるもの(今時間を使っているもの)をすべてリストアップし、やめることを決める。そして誘惑に負けないようにそのハードルをできる限り上げる(すぐには出来ないようにする)こと。

自分の意志の強さに頼るというのは、もっとも愚かなやり方です。

もう一度言います。何かを手にしようと思えば、それには必ず代償がいります。あれもこれも「全取り」はできないのです。

そして手に入れようとしているものが大きいなら、その代償もそれに見合った大きさになるはず。

もし本気で英語を身に着けたいなら、そしてそのために邪魔になることなら、キッパリと諦めるべきです。お酒もSNSもたっぷり楽しみつつ、なおかつ英語に数時間も、というのは無理な話なのです。

「全取りはできない」というのはそういう意味です。

英語の神に愛された人たちが「いつの間にか」かけてしまっている数時間を、僕たちは「今から」死にものぐるいで努力して捧げなくてはならない、それを可能にする唯一の方法が習慣化なのですから。

完全にやめる+毎日やる

そしてこの際に大切なのは、やめる時は中途半端にやめないこと。完全にやめるほうがはるかに楽です。というのは、例えば「こういう時はOK」というルールを作ったとします。そうすると、「この時はいいんだっけ?」といちいち頭で考えなくてはならなくなります。 

目指すべきは「習慣化」、すなわち、いちいち頭で考えずに行動ができる状態ですよね。そうであれば、こうして「いいかどうか考える」こと自体が、その大きな邪魔となるのです。

ですから中途半端でなく、やめるものは完全にやめること。

そして逆に行動(英語の勉強)は「毎日」やること。

これが例えば「週に3日やる」と決めたとします。そうなると、「今日はやる日だっけ?」と、また考える手間が生まれます。それによって「葛藤」が入り込む余地が出来てしまう、ということ。

ですから習慣にすべき行動は「毎日」やる、そしてやめるべき習慣は「完全に」絶つ。厳しく聞こえるでしょうが、実際はこの方が遥かに楽なのです。

例外は一切作らないこと。そうやって決心して順調に進みだした時に限って、邪魔が入るものです。本当に不思議なぐらい。それも、「こういう状況ではしょうがないな」と堂々と自分に言い訳ができるような邪魔が。

例えば突然同僚の異動が決まって、その送別会でどうしてもお酒を飲まなきゃいけないとか。

でも、まだ習慣化していない内に例外を作ったら、それは砂で作ったダムに穴を開けて水を流すようなもので、そこから水は勢いよく流れ出し、その流れはどんどん大きくなり、いずれダムを決壊させます。

これまでに習慣化に失敗したという方、その始まりは常に「これぐらいいいか」「これはしょうがない」という気持ちだったはず、違いますか?

人は騙せても、自分だけは騙せません。例外を作ったこと、サボったことは自分が一番よく知っています。それによって、もっとも大切な「自分は自分との約束を守れる人間だ」という自信=「自己効力感」は低下し、そこから挫折へとつながる、これが最悪のシナリオです。

すでにお話したように、「習慣化」できるかどうかに英語の習得ができるかどうかはかかっています。その覚悟を持って挑んでください。